みれです。
いよいよ4月1日から、待ちにまった『第一回 無限文学賞』の作品が一般公開されます。(場所とかはリンク先の記事に追記されるかも)
この機会に、ギルドburiに「文芸部」ができるみたい。
とにかく、すごく楽しみなんだ!
そんなわけで、僕の応募した処女作を公開するよ。
生まれて初めて短編を書いたんだ。
短いお話だから、ぜひ時間があるときにでも読んでおくれ。
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・‥…・‥…・‥…‥・・‥… Cherry Blossom ・・‥… ‥・・‥…
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この物語は、とあるシャードのフェルッカと呼ばれる世界のおはなしです。
ここでは、騎士の都ギルドと、侍の都ギルドが、互いの領土をめぐって戦争をしていました。
国境には誰が植えたというのではないのに、一本のそれは立派な桜の木が生えていて、その右と左(つまりそれぞれの領地)には、二軒の小さな家が建っていました。
ある日その二軒の家にそれぞれの都の戦士が一人ずつ引っ越してきました。
騎士の都の戦士は老いた剣士で、侍の都の戦士は若い侍でした。
二人はお互い敵対同士ですから、はじめは距離をおいていましたが、
そこは旅する人も少ない静かなところでしたし、なにより二人ともそれぞれ善良で、親切な良い人でしたので
「やぁ、おはよう」
「おはようございます、今日もいい天気ですね。気持ちが晴ればれしますよ」
といった具合に、挨拶を交わすようになりました。
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やがて春が来ると、桜の木は立派に満開の花を咲かせました。
「ほお、思ったとおりだ美しいものだな」
「ええ、いつか戦争が終わって、敵味方関係なくお花見ができるようになるといいですね」
その頃はまだ二つの都に大きないさかいはなく、二人は朝に晩に声をかけ合い、
仲良く一日を過ごすようになりました。
その頃から若侍は老剣士に剣の稽古をつけてもらうようになりました。
なんと老剣士は騎士の都では一二を争うほどの、すさまじい剣の使い手だったのです。
はじめ若侍のほうは剣をもつ手もぎこちなく未熟でしたが、それでも老剣士に教わって熱心に稽古をかさねました。
やがて夏が過ぎ、秋になるころには若侍はみちがえるほど強くなって達人の老剣士を相手にしても遅れをとらないほどに成長しました。
「じっさいの戦だったらそう簡単にゆかぬかもしれん。が、先ほどの突き、あれはなかなか良かったぞ!もしも『もうこの後はない』くらいの覚悟だったら、お前の勝ちだったな」
老剣士の言葉に若侍は勝てる見込みのあることを知って頬を染め、目をキラキラさせながら一生懸命稽古に打ち込みました。
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そんなところにも冬は来ます。
二つの国の状況は悪化し、若侍は戦争をするため侍の都に帰ることになりました。
老剣士は、若侍にいいました。
「私は実はこう見えても騎士の都ではそれなりの地位にあるのだ。私の首を取って帰ればおまえは出世し、前線に送られることもあるまい」
「なにをいうんです?!そんなバカなこといわないでください」
「いいや違うんだ。いいかよく聞きなさい。私の命はもう長くない。長年使ってきた、騎士の聖なる力の副作用でな。こうしている間にも、絶えない微熱に襲われ続けているのだ。
お前はまだ若いんだ、これからもっと強くなれる、命を粗末にするんじゃない!さあ私を殺して都に帰りなさい」
「そんな…。いいえ!先生の首を取って出世するくらいなら、僕は都に行って最前線で戦います」
若侍はそういって戦うために早馬で一路侍の都に戻っていってしまいました。
老剣士はひとりぼっちになってしまいました。
ここはそれぞれの国の都からずいぶん遠く離れていましたから、戦をしているのが嘘であるかのように、とてもとても静かなものでした。
老剣士は病を押してひとり剣の稽古にはげみました。ただ、ただひたすらに若侍の無事を祈りながら。
季節はめぐり、また春がやってきました。
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今日は朝から雲が立ちこめ、季節はずれの肌寒い日でした。
そんな中でも満開に咲き誇る桜の花を見上げて、老剣士は静かにため息をつきました。
その時、遠くからこちらに近づいてくる馬のひづめの音に気づきました。
老剣士はハッとなりながら振り向くと、そこには都にいた老剣士の部下がいました。戦争終結の知らせに来たのです。
「わが国の勝利ですぞ!それはもう、見事なものでした!追い詰めた敵国の侍は、もはやこれまでと最後を悟ったのでしょう。
わが軍が乗り込んだ時にはひとり残らず自らの腹を切り、自決しておりました」
「自決…本当に誰ひとり残らずか…?」
部下は満足そうに頷くとこういいました。
「敵に若い侍が一人いましてな。これがまさに鬼神のような強さで、その太刀筋たるや、まるで若い頃のあなたを見ているようでしたぞ。
その若い侍は自分の味方に撤退を呼びかけながら、自分はわざと兵の多いほうへ多いほうへ飛び込んでいったのです。
あれではいくら強くても無事ではありますまい。敵ながら惜しい若者を亡くしたものです。
私はこれから宿にもどり、明日の朝、都に発つまえに再びご挨拶に伺います」
部下は深く頭を下げると馬に飛び乗りました。
老剣士はまるで頭を木槌で殴られたかのような衝撃をこらえながら
「そうか…。報告、ご苦労」と声を振り絞っていいました。
部下の乗る馬のひづめの音が完全に聞こえなくなってから、たっぷり十数えたあと、老剣士は桜の木にもたれかかり大声をあげて泣きました。
そしていつしか老剣士は眠ってしまいました。
それからどれくらいの時間がたったのでしょうか。
老剣士が目を覚ますと、さっきまで立ち込めていた雲は嘘のように消え、空は晴れわたり、あたたかな春のそよ風が老剣士の頬をくすぐっていました。
しばらくすると老剣士は、むこうから誰かがゆっくり歩いてくるのに気づきました。
目を凝らすと、なんとそれは老剣士の良く見知ったあの若侍でした。
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都に旅立ったときとまったく変わらない姿で現れた若侍は、おどろいて声も出ない老剣士の傍までくると、優しく手を差し伸べながらこういいました。
「今年の桜もじつに美しく咲きましたね。ようやく戦争は終わりましたよ。これからは敵味方関係なくお花見ができますね」
「お前、生きていたのか…」老人はようやくかすれた声でそういい、若者の手をとって、ゆっくり立ち上がりました。
若侍は静かに頷くとこういいました。
「これからは、この平和を守るために、僕はこの剣の力を使いたいと思います。先生また僕に剣の稽古をつけてくださいますよね?」
老剣士はいいました。
「あ…ああ…。あぁ、そうか…ははは…。わははは!あぁ、もちろんだとも!なぜだか今日は私も調子がいい。体が軽くなってまるで若返ったみたいに感じるぞ。
まだまだお前には負けられんなあ!」
老剣士は、それではさっそくと腰の剣を抜きました。
若侍はそれに応えて腰の刀を抜くと「望むところです!せや!」と鋭い突きを繰り出しました。
老剣士はその勢いを殺すことなく軽くうけ流すと「やるな!さてこれはどうかな?」と素早く打ち返しました。
二人の剣士の澄んだ撃剣の音は、まるで美しい音楽の音色のように春の風にのって丘を越え、遠くへ遠くへ、いつまでも響いていきました。
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翌朝、昨晩から降りしきる雨のなか、老剣士は桜の木の根本で冷たく横たわっていました。
発見した部下があわてて駆けよりましたが、老剣士の息はすでにありませんでした。
「なんてことだ…どうしてこんなところで」
動揺した部下は、自分が尊敬する、すでに冷たくなってしまった老剣士を抱きおこすと、その顔を見てハッと息をのみました。
雨に濡れ、さくらの花びらがはり付いた老人の顔は、とても安らかで、とても満足そうに口元には微笑みさえ浮かんでいたのでした。
お し ま い
